単音の電子音が奏でるメロディーが響く。
アラームではなく、チャイムで起きた。
すりガラスの向こう、明らかに配達員でもなく、近所の人でもない人影。
感づいた僕は「その為に」起こされた苛立ちが少し顔を出す。
「どちら様でしょうか?」
『あっはい。お知らせがあります』
名乗らないすりガラスの向こうの人物の、会話にもなっていない返答にまた苛立つ。
僕は苛立ちを抑え「何のようですか?」 と問い返す。
そうすると『はい、見ていただきたいものがあります』と、小冊子のようなものをバッグから取り出して片手に持ち、もう片方で勝手にドアを開けようとするではないか。
すりガラス越しの向こう、何の迷いもなくそれを行う思考停止の行動に恐怖を感じる。
自分がされたら喜んで鍵を開けてお招きするのだろうか?
それが何の勧誘だろうと、不法侵入になる行動をしてまで「見ていただきたいもの」を伝えても相手に届くわけはないだろうに。
起こされた苛立ちも手伝って、今日は不満から始まる一日になってしまった。
これを不快に思わないのは無理なのである。
ブルーハーツの「青空」が頭の中で流れだす。
“神様にワイロを贈り 天国へのパスポートをねだるなんて本気なのか?”